マンション麻雀に行ってみたい

「マンション麻雀に行ってみたい。」

そう思ったのは、ある夜ふと、家で一人でビールを開けているときだった。

別に危ないことがしたいわけじゃないし、刺激を求めているつもりもない。

ただ、人はどうしてこう、知らない世界に “ちょっとだけ顔を出してみたい” と思うのだろう。

本記事は、そんな“誰かの生活の延長線上にある小さな世界”へ、私がちょっとお邪魔してきた記録だ。

ただし、最初に大事なことを言っておくと、

本記事は特定の店舗・特定の人物・特定の営業形態を推奨する意図はありません。

また、実際の賭け行為を助長する目的でもありません。

あくまで「こんな場所が世の中には存在するらしい」という、生活の一ページとしてお読みいただければ幸いです。


マンション麻雀というのは、基本的に紹介制である。

街のフリー雀荘のようにふらっと一人で入れる場所ではない。

まずはその道にツテがある人を探さないと、何も始まらない。

とはいえ、すぐに思いつくわけもなく、社内でいろいろな人に、

「マンション麻雀行きたいんですけど・・・」

と、少し危ない人だと思われそうな相談を繰り返していたところ、とある社員に

「横山さん(仮名)に聞いてみれば?」

と言われた瞬間、頭の上で電球が灯った。

横山さんは僕が学生時代にアルバイトしていた雀荘の先輩だ。

メンバーを辞めてからはマンション麻雀をやっている、というを噂を昔聞いたことがある。

もっとも、それももう10年近くの話だ。

今もやっている保証はどこにもない。

幸い連絡先は残っていたので、ダメもとでLINEを送ってみた。

お久しぶりです、小野寺です。
今でもマンション麻雀やってますか?
やってたら参加したいんですけど、ついでに記事にしてもいいですか?

返事は驚くほどあっさりしていた。

いいですよ。
次は〇月〇日に開催されるので、住所送っておきますね。

実際はもっと丁寧な文章で情報量の多いやり取りをしているのだが、要約すると、拍子抜けするほど簡単に参加が決まった。


開催当日、指定された住所に向かう。

駅前の賑やかなエリアから少し離れた場所にある、ごく普通のマンション。

高級感があるわけでもなく、かといって古すぎることもない。

ドアのチャイムを鳴らすと、場主の横山さんが出てきた。

「お久しぶりです」

「久しぶり。元気にしてた?どうぞ入って」

促されるまま部屋に入る。

内装は本当に普通のマンションで、間取りもさほど広くない。

リビングには最新式の自動卓が一台だけ置かれていて、すでに先客が一人座っていた。

※イメージです

往年のプロ野球選手と彷彿とさせる体格と、かなり強面のビジュアル。

ここではカズさんと呼ぶことにする。

「今日初めての小野寺さんです」

「よろしくお願いします!」

緊張を誤魔化すように、少し大きめの声を出す。

「おう!よろしくな!バカラはやんねえのか?俺、先週300いかれちまったよ(笑)」

人生で一度も聞いたことのないタイプの挨拶だった。

覚悟はしていた。

マンション麻雀にはどんな人が来てもおかしくない。

とはいえ、初回からこれはインパクトが強すぎる。


しばらく座って待っていると、続々と今日のメンツが入ってきた。

みたいな顔だとカズさんにいじられていた

カズさんほどではないがそこそこ強面の男性。

ただ、今日の中では一番物腰が柔らかくて優しかった。

麻雀中も笑顔が素敵だったのでここではニコさんと呼ぶことにする。

最後に入ってきたのは見るからに打ち手風の青年。

AIは麻雀と革ジャンを結びつける傾向がある

理由は色々と伏せるが、ここではリューさんと呼ばせてもらう。

三人とも素性は全く分からないが、少なくとも「普通のサラリーマン」ではなさそうだ。

メンツが揃ったところで、横山さんから簡単なルール説明を受ける。

・完全順位制の東風戦

1位:+15枚

2位:+5枚

3位:Δ5枚

4位:Δ15枚

順位点の他に全員で差しビンタ2枚を握る。自分より順位が上の人全員に2枚払うが、原点のクビ(25000点)を割っている人はクビがある(25000点を超えている)人に倍額を支払わなくてはいけない。

例えば自分が4着で自分以外の3人にクビがある一人沈みの場合が全員に4枚づつ払い、逆に1人浮きの1着なら全員から4枚づつもらえる。

1人浮きの1着なら少なくとも+27枚だ。

赤牌は各色2枚づつ、合計6枚入っていて、鳴き祝儀が1枚。一発、裏ドラも1枚。

順位ウマを上げた一昔前の歌舞伎町ルールみたいだな、と思った。

ゲーム代は1枚、トップ者からは2枚。レートを考慮したら妥当なところだろうか。

そしてカズさんとリューさんは2人で個別に馬身(着順の差で金額が決まる差しウマ)を握っているらしい。

金額は伏せるが、トップラス(3馬身)一回で僕の2ヶ月分の食費くらいだ。

「何も気にしないでいいからね。自分が勝つことだけ考えて」

と横山さんは言ってくれたが、2人の勝負に水を差すようなことをしたらバットで殴られるんじゃないか、不安でたまらなかった。


記念すべきマンション麻雀1戦目は起家スタート。ドラは、緊張しながら配牌を開けると、

ドラは1枚あるが赤はなく、いい配牌とはいえない。

第一ツモでを引き、ペンチャンが埋まったので役牌の重なりを残してから切り出した。

を引ければ鳴いてタンヤオを目指すつもりだが、この牌姿が望外の伸びを見せる。

ドラのを立て続けに2枚引き、12巡目には

あの配牌がドラ3のリャンメンテンパイにまで漕ぎ着けた。巡目は深いが他にリーチや仕掛けは入っておらず、みんな手が遅そそうだ。当然リーチを打つ。

一発目に対面のニコさんの手が止まり、少考ののちにを打ち出してきた。

僕の捨て牌にはが切られていて中筋ではあるが、赤牌が6枚入っているこのルールでは単騎も決め打ちも否定できない。

「やる気満々じゃねーか。ニコちゃんはいつも通りだな(笑)」

カズさんが笑う。

「何回考えてもこれが一番いらないんですよ(笑)」

ニコさんも笑ってはいるが、真っ向勝負の構えだろう。

2巡後にをツモることができ、裏は乗らないが4000オールのアガリとなった。

25000点のクビを切られないことが大事なこのルールで12000点の加点は大きい。

初戦はリードを守り切り2人浮きのトップで終了した。


周り親なので2戦目は北家スタート。

東一局はタンヤオ仕掛けのニコさんが500-1000の1枚をツモアガリ。

東二局は僕がピンフドラ1のを早い巡目にテンパイし、リーチを打つと親のニコさんが勝負したでロンアガリ。

裏は乗らないがトップ目から3900点を直撃し、クビを作ることもできた。十分な加点である。

東三局は5巡目にリューさんから早いリーチを受ける。情報は少ないがなるべく放銃は避けたい。

すると親のカズさんからも同巡に追っかけリーチがかかる。一発目の自分の手牌は、

赤赤のテンパイはしたが、は場に2枚切れていて、トップ目から2件リーチに立ち向かうにはあまりに分が悪い。

しかし、共通安牌もない。リーチ者は2人ともピンズを1枚も切っておらず、かろうじては親のカズさんの現物だが、リューさんにはかなりの危険牌な上、を抜いたらこの手はもう戦えないだろう。

強いて言うならか・・・?

「おめえ結婚してんのか?」

決め切れずに悩んでいると、僕の左手の指輪を見たカズさんが声をかけてきた。

開始から明らかに手が強張っている僕の緊張を和らげようとしてくれたのかもしれないが、本当に今じゃない。

「こんなとこ来ててカミさんに怒られねえか?(笑)」

世間話は次の局にしてくれ。けど無視もできない、怖いし。何より早く切らなきゃ。

半ばパニックになってを切った。

「ロン」

口を開いたのリューさんだった。待ちは 2枚使いのシャンポン。

リーチ一発赤赤、裏が1枚乗って満貫4枚の放銃になった。

迷って選んだ牌はどうしてこうもいい結果を生まないのだろう。痛すぎる。

トップから一転してラス目で親番を迎えることになった。

このまま2人沈みのラスだと着順でΔ15枚、ビンタでΔ10枚、少なくとも25枚の支払いになってしまう。

嫌でも配牌を開ける手に力が入る。

頼む、さっきの恥ずかしい放銃をなかったことにしてくれ。

悪くない。がポンできれば十分に連荘が狙える。

状況次第ではもポンしてバックでもやむなしか。

そう思っていた矢先にリューさんが3巡目に僕が切ったをリャンメンでチー。

チャンタ、三色、役牌、現時点では絞れないが、の出が遅くなりそうで非常に感触が悪い。

持ち持ちだけはやめてくれ。拝むように手を進めていたらがアンコになり、ペンも引き入れメンゼンの一向聴になった。

が切られたらもちろんポンテンを取るが、ここまできたらリーチを打ちたい。

早々にを仕掛けたリューさんもあれ以来動きがなく、手の進みが悪そうだ。

13巡目にを引いてリーチを打つ。ツモればクビあり2着、裏1なら逆転トップだ。

同巡にニコさんから追っかけリーチがかかる。追われる3着目も黙ってはいられない。

ニコさんにアガらればラス、ツモれば大逆転、この捲り合いに勝つか負けるかで上下40~50枚違うはずだ。

ビギナーズラックでいい、勝たせてくれ・・・

いよいよ流局するかと思われた16巡目にをツモることができた。

裏は乗らないが2600オールでクビができ、2着辞めを宣言する。

これは大きい。ラスのままなら最低Δ25枚のところを2着の+5枚、ビンタの+6枚、祝儀は+3枚で+14枚の2着で終えることができた。

ハマってはいけない高揚感に包まれていたら、ここから突風が吹き始めた。

続く3戦目から怒涛の3連勝を飾り、着順は4-1-0-0となっていた。

5戦で100枚以上プラスになったと思う。

代わりに卓内の不幸を引き受けたのはカズさんだった。僕の暴風のような攻撃を堅実な打ち回しでかわし、スッと着順を上げてくるリューさんとのサシウマ対決に5連敗し、おそらく500枚以上がサイドテーブルから消えていた。

「5タテだぞ!?なあ!?聞いたことねえよそんなの!」

僕はいつバットが出てくるんじゃないかと怯えながら、目立たないよう無言に徹していた。


そこからは2、3、3、2と我慢の展開が続き、10戦目のオーラスはこのようになっていた。

東家:カズさん 18500点

南家:自分 17500点

西家:リューさん 45500点

北家:ニコさん:18500点

リューさん以外の3人が微差で競っている熾烈な点棒状況で、僕は起家なので1000点でもアガれば席順で2着になれる。

そして僕はこのオーラス、一つ確信があった。

それは、僕がテンパイすればリューさんはほぼ差し込んでくれるということだ。

サシウマを握っているカズさんは現状席順で3着目、このまま終わればリューさんは2馬身分のもらいになるが、僕に1000点でも差し込めばカズさんを4着に落とすことができる。

僕は満貫をアガればクビができるが、この点棒状況では贅沢を言っていられない。

とにかく早くテンパイを入れ、2着浮上を目指したい。

配牌は、

第一ツモでがカンツになった。打点はいらないがツモ番は一回でも多い方がいいのでカンを宣言する。

リンシャン牌はだった。目一杯にを切る。放銃を恐れる理由はない。

次巡にを引き、リューさんからを切られたのでポン。

と引き、9巡目には

役役ホンイツの満貫テンパイとなった。アガればクビあり2着だ。

僕のマンズとピンズが並んだ捨て牌を見て、リューさんはすかさずと切ってきた。明らかに差し込みにきている。

こういう麻雀はかなり慣れているんだろう、スキがない。

続けて切ったで差し込みに成功し、僕はクビあり2着浮上、リューさんは3馬身ゲットとなった。

サシウマを握っている人がいると、こういう恩恵を受けることもできる。

結局この日は予定の時間まで16戦打ち、

着順:8-4-4-0

収支+200枚

と快勝を収めることができた。

昂る気持ちを抑え、ろくに靴紐も結ばず、

そそくさとマンションのエントランスを後にした。


マンション麻雀がどういう場所なのか、自分なりに言葉にするのは難しい。

危険かと言われれば、たしかにゼロではないし、

健全かと言われれば、胸を張ってそうだという気もしない。

また行くかどうかは、正直まだ分からない。

ただ、今日は間違いなくツイていた。

家に帰ってシャワーを浴び、いつもより少し冷えたビールを開ける。

今日は、勝利に浸ることにした。


この記事を書いた人

小野寺

1992年千葉県出身。
ガソリンスタンド勤務中にトラックに撥ねられて命の危機を感じ、上京して雀荘メンバーになった。

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